海辺から始まる、正体不明の男の物語
ソウヤ・ブンによるマンガ「ツネタ」の単行本が、上巻・下巻の2冊同時という形で本日リリースされた。上下巻まとめての同時刊行は、作品を一気読みしてほしいという意図が感じられる形式だ。
物語の幕開けは、主人公が気づいたら海辺に立っていたという場面から始まる。携帯電話を海に落としたらしいが、その記憶すらない。手には見覚えのない銃が握られており、自分が歩いてきた道も、自分が何者なのかも、まったくわからない——。そんな極限の状況から、「ツネタ」という男の物語は動き出す。
自分探しではなく、自分の「正体」を探す物語
「記憶喪失」を扱ったサスペンス作品は数多く存在するが、「ツネタ」が提示するのは単純な記憶喪失ものとは一線を画す緊張感だ。携帯電話を自ら海に捨てたのか、それとも誰かに捨てさせられたのか。謎の銃は何を意味するのか。主人公が「ツネタ」という名前を持つ男であることすら、読者にとっては最初から疑問符がつく。
こうした「自分は何者か」という問いを軸にしたサスペンス構造は、読者を主人公と同じ目線で物語に引き込む力がある。情報が少ない状態から少しずつ真相に近づいていく構成は、一気読みに向いており、上下巻同時刊行というスタイルとも見事に噛み合っている。
上下巻同時刊行という選択の意味
マンガの単行本が上下巻同時に発売されるケースは、それほど多くはない。連載誌での掲載を経て完結済みの作品であることが前提となるが、この形式には「物語のすべてを手元に置いて読んでほしい」というメッセージが込められているとも受け取れる。伏線や謎が多いサスペンス作品においては、途中で続きを待たされるストレスなく読み通せるのは大きな魅力だ。
ソウヤ・ブンという作家がどのようなキャリアを歩んできたのか、また「ツネタ」がどのような媒体で連載されていたのかについても、今後さらに情報が出てくることに期待したい。謎の多い主人公の正体とともに、作品の全貌が明らかになっていくのをじっくり追いかけていきたい一作だ。