妾の娘と訳あり文豪——すれ違いから始まる和風ロマンス

物語の主人公は、北小路家当主の妾の娘として生まれた綴。名家・東堂家の次男・征司との縁談が決まっていたものの、理不尽な言いがかりによって婚約を破棄され、使用人以下の扱いを受ける日々を送っていた。そんな彼女の唯一の逃げ場は、屋敷の地下にある書庫。そこで出会った新進気鋭の怪奇小説家・壬生冬青(みぶとうせい)の作品に心を奪われていくが、やがてその正体が、自分を貶めた「絶対に許せない男」である征司だったことが明らかになる。

さらに物語は急展開を見せる。以前とは別人のように変わった征司が突然綴の前に現れ、求婚を申し出てくるのだ。不審を抱いた綴は、彼の驚くべき秘密を暴いてしまうことになる。第1話から伏線と謎が巧みに張り巡らされており、続きが気になる構成になっている。

小説×マンガの共同制作プロジェクト「ne-comi」発の意欲作

本作は、新潮社が立ち上げた小説とマンガの編集部が共同で作品を制作するプロジェクト「ne-comi(ネッコミ)」から生まれた作品だ。原作となる蒼磨奏の小説は、2025年2月に新潮文庫nexより発売されており、すでに小説ファンの間で話題を集めていた。

このne-comiというアプローチは、原作の世界観や文体のニュアンスをマンガに落とし込む際に編集段階から連携できる点が強みだ。怪奇小説家という設定が醸し出す耽美な雰囲気と、大正・明治期を思わせる和風の世界観を、菫野さとみがどのように絵で表現しているかも、本作の大きな見どころといえる。

「憎んでいた相手が、密かに愛していた作家だった」というギャップは、ロマンス作品の王道でありながらも、文豪という設定が加わることで独特の奥行きを生んでいる。原作小説を読んだファンはもちろん、マンガから入る読者にとっても、謎めいた征司の「驚くべき秘密」が何なのか、早くも気になるところだろう。コミックバンチKaiでの今後の更新に注目したい。