田澤裕によるマンガ「にせもの家族」(ヤングガンガン/スクウェア・エニックス連載)が、じわじわと読者の間で話題を集めている。騙す側に悪意がなく、騙される側にも実害がない──そんな奇妙な構図の中から、本物の家族以上の温もりが生まれていく作品だ。
全員が他人、でも誰も傷つけていない──独特すぎる設定の妙
物語の主人公は、母親を突然亡くし心の整理がつかないまま放浪生活を送る小説家・清。ある日、庭先で倒れているおばあさんを発見した清は、亡き母の姿を重ねて思わず助け起こす。ところがそのおばあさんは認知症を患っており、清を13年間音信不通だった息子・拓郎と思い込んでしまう。
流されるままに家へ招き入れられた清が驚くのは、そこからだ。おばあさんの「娘・雪」と「孫娘・玲愛」として暮らしているはずの二人もまた、血のつながりとは無縁の赤の他人だったのだ。雪の本名は葵といい、失踪した友人の養子・玲愛を引き取った上で、おばあさんのもとに転がり込んでいた。清は思わず「あの家族、全員他人じゃないか!!」と愕然とするが、誰一人おばあさんを傷つけようとしていないという事実が、この物語の核心を静かに物語っている。
"真実"と"事実"──この作品が問いかけるもの
「にせもの家族」を読んでいると、"真実"と"事実"という二つの言葉の違いについて自然と考えさせられる。血がつながっているかどうかという"事実"は変えようがない。しかし、互いを思いやり、支え合い、同じ時間を積み重ねるという"真実"は、戸籍の上の関係とはまったく別のところに宿るのではないか──本作はその問いを、重苦しくなく、むしろ温かみのある筆致で描いていく。
悪意のない嘘が積み重なることで生まれる絆というテーマは、一歩間違えれば不快感につながりかねない。それをハートフルな読み心地に昇華できているのは、登場人物それぞれが「おばあさんを悲しませたくない」という純粋な動機で動いているからだろう。清が母を亡くした痛みを抱えていること、葵が養子の玲愛と懸命に生きていることなど、各キャラクターの背景も丁寧に描かれており、感情移入しやすい作りになっている。
田澤裕のコマ割りと表情描写は、笑いと切なさを絶妙なバランスで共存させており、ページをめくる手が止まらない。家族の形が多様化する現代だからこそ刺さる物語として、今後さらに注目を集めそうな一作だ。続きの展開、そして「本物の家族」たちが戻ってきたときにどんな波紋が広がるのか、目が離せない。