屋台ごと異世界へ──頑固なお婆さんが織りなすグルメ×ファンタジー

本作の主人公は、長年おでん屋を営んできた春子婆さん。ある日、屋台ごと異世界に迷い込んでしまった彼女が、その世界で出会った傷ついた人々を、ジュワッとしみわたるおでんの味で癒していくという物語だ。「偏屈」という言葉がタイトルに入っているとおり、春子婆さんはお世辞にも愛想がいいキャラクターではないらしく、そのギャップが物語の大きな魅力になっているようだ。

原作は紺染幸によるライトノベル。一二三書房はこれまでも異世界ものやグルメ系の作品を精力的に展開しており、本作もその流れをくむ一作として注目を集めている。

「異世界×料理」ジャンルにおける春子婆さんの立ち位置

近年、「異世界×料理」というジャンルはすっかり定番化した感があるが、本作が一線を画しているのは主人公が高齢の女性である点だ。若い転生者や料理人が活躍する作品が多いなかで、人生経験を積んだお婆さんが主役というのは、かなり珍しい設定といえる。

おでんというメニュー選択も絶妙で、派手さはないが奥深く、体の芯から温まる料理だ。傷ついた人々を癒すという物語のテーマと、おでんが持つ「じっくり染み込む」イメージが見事に合致している。豪快な異世界バトルや派手な魔法よりも、ほっこりとした人情ドラマを求める読者にとって、本作はかなり刺さる一冊になりそうだ。

作画の望月和臣がおでんの湯気や具材の質感をどう表現しているかも、読む上での楽しみのひとつ。グルメ漫画においてビジュアルの説得力は作品の命ともいえるだけに、そのあたりは実際に手に取って確かめてほしいところだ。

第1巻の発売を機に原作小説への関心も高まることが予想され、今後のコミカライズの展開がどこまで続くのか、続巻の情報にも注目していきたい。