霊長類研究者と1頭のチンパンジーが引き起こす未曾有の災厄
本作は、霊長類研究施設に勤める研究者・鈴木望が、南スーダンからやってきたある1頭のチンパンジーと出会ったことをきっかけに物語が動き出すパニックSF。タイトルの「Ank」とはそのチンパンジーの名前であり、「史上最悪の災厄」を招く存在として描かれる。類人猿と人類の境界、そして文明そのものを揺るがすスケールの大きなテーマが、コミカライズによってどう視覚化されるかが注目点だ。
「テスカトリポカ」直木賞作家・佐藤究の原作小説とは
原作小説「Ank : a mirroring ape」は、2021年に直木賞を受賞した「テスカトリポカ」で一躍その名を知られることになった佐藤究による長編作品。佐藤は犯罪小説からSF、ホラーまでジャンルを横断しながら、常に人間の暴力性や本能の深部を抉り出す作風で知られており、本作でも「類人猿が史上最悪の災厄を招く」という強烈な設定のもと、人類の根源的な恐怖に迫る内容となっている。映像的な描写と圧倒的な情報密度が特徴の佐藤作品は、もともとコミックとの親和性が高いと言われており、このコミカライズは原作ファンにとっても長らく待望されていた企画だ。
作画を担うイナベカズは、緻密な線と重厚な空気感を得意とする作家であり、パニックSFという題材との相性は決して悪くない。扉ページから漂う独特の緊張感は、原作の持つ不穏なトーンをしっかりと引き継いでいる印象を受ける。直木賞作家の問題作がどこまで漫画という表現に昇華されるか、今後の展開から目が離せない。